精工舎・一週間巻鎖引標準船時計(日本海軍)

久しぶりに時計のお話。
古い時計が好きな自分ですが、その中で一番のお気に入りが「船時計」です。
船時計はいくつか持っていますが、今回はずっと欲しかった船時計「鎖引」の"ジャンク"を手に入れたのでご紹介します。

船時計とは。
昔の時計はゼンマイの力を利用して動きます。
そして、一般的な時計は、ゼンマイの力を一定の周期で揺れる"振り子"を利用して時を刻むのですが、この振り子は、少しの傾きや揺れで狂ってしまったり、止まってしまったりします。
これでは、揺れる船で使用することができません。
船時計は、振り子の代わりに「テンプ」と呼ばれるヒゲゼンマイが往復回転運動をして一定の周期を作って時を刻みます。
テンプは機械式腕時計や懐中時計などにも使われている機構です。
傾きや揺れに強いため、船や汽車に使用されました。
テンプ式の壁掛け時計を総じて「船時計」(例外あり)と呼ばれています。
今回手に入れた船時計は、船時計の中でもハイエンドクラス、国産唯一の「鎖引」船時計です。
普通に買おうとすると、可動品で20万~30万円くらいする貴重なものです。
当然、一般庶民な自分には手が出せません。
そこで、ジャンクでもいいから出物がないか前々から探していた所、九州のとあるリサイクル店のオークションでジャンクを発見。
速攻でGETしましたw
農機具や工具などのリサイクル店だったのですが、なぜそこでw
しかし、届いた荷物にちょっと唖然。
使い古しの段ボールに緩衝材無しで放り込んだまま届きました。しかも時計なのに、ワレモノ指定"無し"で!
正に鉄屑のように……、せ、せめて新聞紙でも入れてくれれば-。
そりゃー興味のない人にとってはゴミかもしれませんが……。
部品同士がガチガチ当たり、無数に傷になってしまった所も。幸い目立たない所で良かったですが……。
さて、愚痴はこのくらいにして、
程度の悪いジャンクということだったので、あまり期待していなかったのですが、中身を確認したところ心臓部は全て生きていました!
しかも、意外と綺麗です。
お店はアレですが、これは良い買物をしましたv
今後、この個体をレストアベースにして、いつか時計として復活させたいと思います。

さて、先ほど「国産唯一の鎖引」と言いました。
で、鎖引とはなんぞ?
ゼンマイは、一杯に巻いた時と、解け終わりに力の差がありますので、精度が変わってしまいます。
その力の差で精度が狂わないように、調整するのが鎖の役割。
上の写真で鎖が見えるかと思います。
鎖はゼンマイに繋がっています。
ゼンマイを巻くと、この鎖が、らせん状で台形をした巻取機に巻かれていきます。
巻取機は、ゼンマイの力が弱くなる"解け終わり"の方が大きく、ゼンマイを一杯に巻くほど小さい場所に鎖が巻かれていきます。これでゼンマイの力を一定にしているというわけです。
とてもシンプルですが、コストが掛かりすぎるため、軍や一部の商船にしか採用されませんでした。


この状態、巻取機に鎖が巻き付いていない状態はゼンマイが解けきっている状態です。
鎖が切れていたり、ゼンマイが切れている個体が多いですが、両方とも無事でラッキーです!

テンプカバーを外すと、心臓部のテンプが見えます。
このテンプが往復回転運動をして、振り子の代わりになるものです。
テンプもダメになっていると思ってましたが、まさか生きていたとは!嬉しいですねv


テンプ部軸受けには、ルビーが使われています。
さすがハイエンド機!

テンプカバーには当時の書き込みがありました。
右から
造航
一八〇
○○←解読不能、 鎮大?
空
と書いてあるような。

ケースには、
錨マーク
造航第180號
と刻印があります。
刻印マニアの自分としては、これだけでご飯三杯いけますw
テンプカバーに書かれた文字、ケースに刻まれた刻印から推理すると……、
うーん、わかりませんw
自分が知る限り、軍用の船時計に刻まれている刻印は、
横、呉、舞とかの鎮守府名、海軍を意味する錨マーク、豊川海軍工廠の「○ト」
航海を意味する"航"(一説には航空母艦とも)
などの刻印ですが、
今回のような"造航"や"??空"
などの印は何を意味するのか分かりません。
航空機には、こんな重くて大きな時計は使わないし、地上で使うものは「振り子」時計で十分ですから、空=海軍航空隊ではないと考えます。
(双眼鏡や懐中時計に刻まれた"空"は海軍航空隊のもの、ちょっとややこしい)
だとしたら空母??
海軍扱いの艦船のものだということは確かですが、果たしてどんな船にあった時計でしょうか……。
海軍の船時計は、艦船の改修工事やメンテの時に取り替えられたものが世に出回ることが多いと思います。
そして、この時計が見つかった近くの鎮守府は佐世保です。
佐世保で改修を行った大型船は赤城、加賀……、まさかねぇw
とまあ、こうやってあれこれ考えるのも楽しいものですw
ロマンが膨らみますね。

ちなみに、ガラスは無くなっています。
後でガラスを切り出して付けてあげよう。

文字盤はプリントではなく、彫り込み。
手間が掛かってます。
しかも、分厚い!

文字盤の裏は、鉄板。
表面は厚いアルミで、裏は鉄板という二枚重ね。

文字盤のアルミと鉄板を外してみました。
真鍮の裏には一八○という文字が確認できますので、テンプカバー、ケースに記された一八○という数字と一致します。
鉄板のサビが酷いので、サビ落とし後コーティングします。
文字盤もアルミなので、軽く汚れを落として腐食防止にコーティングが必要ですね。
さて、今回はここまでv
好きな船時計の話なので、長々と書いてしまいましたが、まだ紹介していない船時計もありますので、機会があれば今後もUPしていきます。
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